『密売者』+(朝山蜻一書誌)

 

  

朝山蜻一著。初版昭和33年10月25日発行。同星出版社発行。カバ帯完本。定価280円。 

 

 近年、出版芸術社より短編集『白昼艶夢』が復刻されて、急激に再評価のたかまっている探偵小説作家・朝山蜻一の長編作品が本書。赤線や特殊風俗店を舞台に極めて猟奇的な殺人事件の行方が描かれる。
 本書の特長はその章ごとの題名である。「猫には鈴がない」「それがはらわたへ」「トランク詰に」「馴らされた羊女」など猟奇趣味満点で物好きな読者の興味をそそるのに十分な章題が添えられている。

 本書は朝山蜻一の著作の中では出ないほうの部類に属するが、非常に運が良ければ展覧会などで安く発掘することも可能である。昨今の朝山フリークの諸君にはぜひ持ってもらいたい逸品である。
 ところで本書の「帯」は出版芸術社の書誌情報によると「ある」そうであるが、わたしは一度も目撃経験がない。本書の「帯」について賢明な読者諸氏の情報を乞うものである。

 最後に一言、カバーの死んでいるのか、寝ているのか、それとも単にふざけているのかわからない猫の写真が非常に良い味を出しています。この猫が本書の人気の一端を担いでいるのは間違いない。

 (このページでは特別に下記に朝山蜻一書誌を付す。読者の諸君の蒐集の参考になれば幸いである。)

 

   

 

◆特別付録◆
「朝山蜻一書誌」
(はらぴょん氏作成)

 

 

※朝山蜻一(Asayama Seiichi)について

作家。評論家。発明家。

1907年(明治40年)7月18日、東京日本橋に生まれる。本名は、桑山善之助。

神田錦城中学中退。映画助監督・レタリング業を経て、桑山裕名義で作家活動を始める。
1979年(昭和54年)2月15日、腸閉塞で死去。

 

[主な執筆活動]
桑山裕の名前で同人雑誌「紀元」「モラル」「新作家」に小説・評論を書く。
1949年12月 「くびられた隠者」、百万円懸賞コンクールC級(=短編)部門候補作として「別冊宝石」1949年12月岩谷書店に掲載される。
1950年9月 「白日の夢(後に「白昼艶夢」と改題)」(初出掲載誌「宝石 19509月号岩谷書店)。

1951年 「不思議な世界の死」、「泥棒たちと夫婦たち」発表。
1952年 「巫女」(初出掲載誌:「別冊宝石」19526月号岩谷書店)が新鋭コンクール第一位となり、探偵作家クラブ編「探偵小説年鑑1953年版」に収録される。

1953年 「ひつじや物語」(初出掲載誌:「宝石」岩谷書店)、「女には尻尾がある」、「天人飛ぶ」発表。

1954年 「ひつじや物語」第7回探偵作家クラブ賞候補作となる。「ぼくはちんころ」(初出掲載誌:「宝石」岩谷書店)。

1954年11月 「函の中の恋」(初出掲載誌:「探偵倶楽部」5巻11号)

1955年 「僕はちんころ」第8回日本探偵作家クラブ賞候補作となり、日本探偵作家クラブ編「探偵小説年鑑1955年版」に収録される。「楽しい夏の思い出」、「死霊」、「変面術師」、「矮人博士の犯罪」発表。

1955年5月 「海女の悲歌」(初出掲載誌:「宝石」107号岩谷書店)

1955年7月 「最近の江戸川先生」
1956年 第一短編集『白昼艶夢』久保書店

1956年10月 「最後の赤線」(初出掲載誌:「宝石」1114号岩谷書店)

1956年11月 「太っちょの三平」(初出掲載誌:「宝石」1115号岩谷書店)

1957年1月 「四等女製造販売人」(初出掲載誌:「宝石」122号岩谷書店)

1957年3月 「夜の扮装」(初出掲載誌:「探偵実話」86号世文社)
1957年4月『処女真珠』榊原書店

1957年8月 「デカという恋人」(初出掲載誌:「宝石」1211号岩谷書店)

1957年11月 「ストリッパー殺人事件」(初出掲載誌:「宝石」1215号岩谷書店)
1958年4月 『女の埠頭』同光社
1958年9月 短編集『悪夢を追う女』あまとりあ社
(収録作品:「きよしこの肌」、「泥棒たちと夫婦たち」、「夜の扮装」、「蒼い湖」、「矮人博士の犯罪」、「盗癖」、「刈枝殺し」、「都落ち」)

1958年9月 「女は突然変異する」(初出掲載誌:「宝石」1311号岩谷書店)

1958年11月 『キャバレー殺人事件』同光社。

1958年『密売者』同星出版
(収録作品:「猫には鈴がない」、「女の殺人」、「それがはらわたへ」、「魔女を許さず」、「女を周旋する」、「太った男」、「トランク詰めに」、「馴らされた羊女」、「火花と散る」、「赤線の最後」)

1960年8月悪女に倖がくる」(初出掲載誌:「探偵実話」1112号世文社)
桑山裕名義で「文芸首都」「東京文学」に純文学作品を発表。
1962年5月 『真夜中に唄う島』雄山閣
発明・哲学・数学研究を行う。音響装置・高速艇の特許取得。

1969年 中島河太郎編『異端の文学2』新人物往来社に、「巫女」収録される。
1970年 桑山善之助名義で、『笑いの科学』、『科学としての資本主義と社会主義』同成社刊行。「推理界」19706月号に、「天人飛ぶ」収録される。
1971年 桑山善之助名義で、短編集『堀金師の娘』同成社を刊行。

(収録内容:「彫金師の娘」、「放心」、「雲の動き」、「窓を撮る」、「可愛い妻」、「わかい指」、「和様」、「暗い朝」、「幸福のために」)

1971年 『現代の推理小説3 ロマン派の饗宴』立風書房に、「くびられた隠者」が収録される。
1972年 桑山善之助著『構造数学新論』

1974年 『宝石推理小説傑作選1』いんなあとりっぷ社に、「巫女」収録される。

1975年 「幻影城」に、以下の作品を発表。

・「フロイトの可愛い娘」(初出掲載誌:「幻影城」1975 July No.6

・「新宿花園物語(探偵文壇側面史)」(初出掲載誌:「幻影城」1975 Nov. No.11)1975年「虫のように殺す」執筆。

1975年 中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集5 殺しの方法教えます』角川文庫に、「巫女」収録される。

1976年 「幻影城」に、以下の作品を発表。

・「凍てつく夜の惨劇(蜻斎志異・第一話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Jan No.13

・「ある時計の進み方(蜻斎志異・第二話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Feb. No.14

・「怪談ホストピアズア(蜻斎志異・第三話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Mar. No.15

・「馬王堆に学べ(蜻斎志異・第四話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Apr. No.16

・「カニ(蜻斎志異・第五話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 May. No.17

・「横溝文学の魅力(正史私観)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 May. No.18

・「ブラックホール(蜻斎志異・第六話)」(初出掲載誌:「幻影城」5月増刊横溝正史の世界1976 Jun. No.19

・「与之介一代(蜻斎志異・第七話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Jun. No.20

・「去る夏の浜辺で(蜻斎志異・第八話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Aug. No.21

・「黄色いオルフェ(蜻斎志異・第九話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Sep. No.22

・「幻覚(蜻斎志異・第十話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Oct. No.23

・「一〇一夜物語(蜻斎志異・第十一話)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Nov. No.24

・「初恋(蜻斎志異・完)」(初出掲載誌:「幻影城」1976 Dec. No.25

1976年 鮎川哲也編『怪奇探偵小説集・続々』双葉社に、「天人飛ぶ」収録される。中島河太郎編『血染めの怨霊』ベストブック社に、「死霊」収録される。

1977年 山村正夫編『残酷な戦慄 恐怖ミステリー集』青樹社に、「くびられた隠者」収録。中島河太郎編『日本探偵小説ベスト集成 戦後編』徳間ノベルスに、「掌にのる女」収録される。

1979年2月15日 朝山蜻一死去。「幻影城」1979 Jun. No.52において、朝山蜻一追悼特集が組まれる。

(収録内容:「朝山蜻一略年譜、「巫女(「別冊宝石」19526月号)」、「白日の夢(宝石) 19509月号)」、「くびられた隠者 (「別冊宝石」194912月号)」、氷川瓏「朝山蜻一氏追憶」、中島河太郎「朝山蜻一の白昼艶夢」)

1979年 中島河太郎編『宝石傑作選集3 怪奇幻想編 月下の殺人鬼』角川文庫に、「死霊」収録される。
1980年2月 遺稿『私家版 その愛』同光社(非売品・限定本)

1984年 鮎川哲也編『怪奇探偵小説集3』双葉文庫に、「くびられた隠者」収録される。中島河太郎編『日本ミステリーベスト集成2 戦後編』徳間文庫に、「掌にのる女」収録される。

1993年 「EQ No.96199311月号)」に、「白昼艶夢」収録される。

1995年5月 『白日艶夢』出版芸術社<ふしぎ文学館>

(収録内容:「くびられた隠者」、「女には尻尾がある」、「白昼艶夢」、「楽しい夏の思い出」、「不思議な世界の死」、「ひつじや物語」、「巫女」、「死霊」、「人形はなぜつくられる」、「泥棒たちと夫婦たち」、「虫のように殺す」、「変面術師」、「矮人博士の犯罪」、「掌にのる女」、「僕はちんころ」、「天人飛ぶ」)

[電子書店パピレス版 http://www.papy.co.jp/act/books/1-304/ ]

1997年 日本推理作家協会編『探偵くらぶ(下)浪漫編』光文社ノベルスに、「くびられた隠者」収録される。『甦る「幻影城」2』角川書店に、「フロイトの可愛い娘」収録される。

1998年 鮎川哲也編『怪奇探偵小説集3』ハルキ文庫に、「くびられた隠者」収録される。

2001年 『真夜中に唄う島』扶桑社文庫<昭和ミステリ秘宝>

(収録内容:『真夜中に唄う島』、『蜻斎志異』)

2004年 ミステリー文学資料館編『「宝石」傑作選 甦る推理雑誌10』光文社文庫に、「白昼艶夢」収録される。

20XX年 『朝山蜻一未刊行作品集』(仮題)龜鳴屋刊行予定。

[龜鳴屋 http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/yotei/yotei02.html ]

 

(はらぴょん氏&黒猫館&黒猫館館長)