死霊界の軍師・レイダーの栄光

「これは語られなかったもうひとつの宇宙刑事の物語」

(黒猫館館長・作)

 

 

 その時期は宇宙犯罪組織・マドーの支配者、魔王サイコにとって苦悩の日々であった。無能とはいえ自分に一番忠実な部下であるガイラー将軍がレイダーの策謀により失脚、そしてかってのマドーの最高幹部であったドクターポルダーでさえ、レイダーの影に怯えて自室に引きこもる日々、・・・魔王サイコにとってこのふたりの腹心の部下の凋落はあまりに痛恨の出来事であった。
 そしてまた宇宙刑事シャリバンの抵抗による度重なる地球侵略作戦の失敗、魔怪獣と戦闘員ファイトローの数知れぬ消耗。


 魔王サイコといえば「無限大のサイコキネシスを操る暗黒銀河の魔王」としてその裏社会ではその名を知らぬ者さえいない大物である。そのサイコを脅かすレイダーとは一体なにものか?・・・その時期、マドーの背後で虎視耽々と地球侵略を狙っていた不思議界フーマの首領・大帝王クビライでさえ、このレイダーのマドー内部での暗躍には慄いていた。
 クビライは不思議宮殿でギャル軍団が待ち帰るマドー内部の状況を聞いて判断した。
 「恐らく、マドーはもう長くはない。しかし「レイダー」やつだけは厄介だ。レイダーを処理するか、あるいは懐柔するかしてからでないと、われわれが地球に侵攻することは不可能だ・・・。」
 「御意・・・。」神官ポーが大きく頭を垂れて、クビライの意思をミラクラーや珍獣たちに伝えた。


 死霊界の軍師・レイダー、その正体は初めて幻夢城に彼が登場した時から極めて不可解であった。レイダーはいきなり白いエクトプラズマを纏いながら幻夢城の謁見の間に登場して、マドーの仇敵である「宇宙刑事シャリバン」を抹殺すると宣言した。この時はレイダーは少なくとも魔王サイコに忠実に見えた。仮にも「死霊界」などという本当に実在しているのかどうか怪しい世界から来た、と嘯(うそぶ)くこの不可解な男を信用してみたいとサイコは思ったものだ。
 しかしレイダーはなぜかシャリバンの抹殺に失敗した。いやサイコはちゃんと見抜いていた。レイダーはシャリバン抹殺に「失敗」したのではない。「わざと抹殺する一歩手前で手を引いた」のだ。
 なぜか?
 サイコはもううすうす気がついていた。レイダーは自分(サイコ)に代わって幻夢城を支配する気であると。そのためのクーデターを計画していると。そしてシャリバンをわざと生かしておいて「マドー全滅」の先兵として利用する気であると。
 
 もちろんサイコにも「最後の切り札」はある。
 しかしこの「切り札」が破られた時、マドーは滅亡して自分(サイコ)も死ぬ。宇宙創世から生き続けてきたサイコにとって「死」とはあまりにも重い恐怖の対象であった。



 「悪の組織」、それが滅亡するには必ず「内部紛争」が絡むものだ。かって地球侵略を企んだマクーが全滅した時もサンドルバと魔女キバのドン・ホラーへの離反があった。悪の世界では裏切りが当たり前だからだ。。宇宙刑事ギャバンに急襲されたマクーからの緊急電波を受信した魔王サイコはあえてこれを無視した。それどころかドン・ホラーというサイコにとってのライバルがひとり消えてくれることをひそかにほくそえんだものだ。しかし今度は自分に危機が迫っている。無論助けてくれる者など全銀河にはひとりもいないだろう。サイコは冷たい汗が額から滴り落ちるのを止めることはできなかった。






 「魔王さまッ!!シャリバンとギャバンがサイコゾーンを通って幻夢城に進入してきますッ!!」ドクターポルダーが持ち前のヒステリックな声で叫ぶ。なぜ宇宙刑事たちがこの幻夢城へ至るサイコゾーンの入り口を発見できたのか。答えはただひとつ。「レイダー。」やつが手引きをしたのだ。サイコは怒りに震えていた。
 レイダーの同伴者であるガマゴン大王がシャリバンに倒された今、幻夢城にいるのは自分(サイコ)とレイダー、そして三人の宇宙刑事、・・・さあ三つ巴の戦いが始まるぞ。
 「カウッッ!!」と魔王サイコは闇に光る両目を見開いた。







 謁見の間に侵入してくるシャリバンとギャバン、ドクターポルダーはいつも簡単にシャリバンに倒されて、今、魔王サイコと二大宇宙刑事が向かいあって立つ。
 「きたか、小僧ども。。。しかしおまえたちにわたしを倒すことは絶対に出来ない・・・なぜなら・・・」 魔王の横に光球が出現した。その光球から生み出されてくるひとつの影・・・「戦士サイコラー」!
 今まさに魔王サイコの最後の切り札が出現したのだ。

 しかしサイコラーは動かない。
 なぜだ!?サイコは焦った。自分の分身であり影武者であり、最大の同伴者であるサイコラーよ、どうしたというのだ!?動け!動いてくれ!!そしてこの小憎らしい宇宙刑事どもを残虐に抹殺してくれ!!サイコの叫びもむなしくなおもサイコラーは動かない。魔王が良くみるとサイコラーは白いエクトプラズマで金縛りにされているではないか!そうか、やはりそういうことだったのか。レイダー。魔王はすべてを悟った。やはりレイダーは宇宙刑事たちに自分を殺させようとしているのだ。
 魔王はゆっくりと眼を瞑った。かって自分が粛清してきた数々の部下たちの顔が地獄で哄笑しているのがぼんやりと見えた。「地獄か、、、それも悪くない。」二大宇宙刑事が憎しみに眼を紅く光らせて飛び掛ってくる。




 「シャリバン・クラッシュ!」
 「ギャバン・ダイナミック!」




 次の瞬間、魔王サイコと戦士サイコラーの身体はバラバラに四散していた。






 不思議宮殿。

 大帝王クビライの元にギャル軍団のギャル1が跪いた。
 「大帝王さま、只今幻夢城からの報告が途絶えました。魔王サイコは死亡した模様です。」
 クビライは重々しく口を開いた。
 「魔王サイコほどの者がこれほどたやすく倒されるとは。・・・ポーよ。おまえの考えを聞こう。」神官ポーがうやうやしく口を開く。「魔王サイコの後ろで糸を引いている者の姿が見えます。その者の名は「レイダー」」。「やはりな。」クビライはうなずいた。「ではポーよ。今後の地球侵略に際してレイダーをどう扱う?懐柔か?それとも抹殺か?」
 ポーは目を瞑りながら答える。「レイダーの背後により巨大な組織が見えます。つまり相手はレイダーだけではありません。レイダーに敵対したら死霊界から続々レイダーの部下たちが現れてくるでしょう。」
 「では?どうする!?」クビライがいらだたしげに叫んだ。ポーが続ける。「道はひとつ。われら不思議界と死霊界が協定を結ぶ。これしかないと。」









 その頃、地球では、イガ星に帰ったシャリバンの後任としてシャイダーが地球担当の宇宙刑事として赴任していた。シャイダーはもともと地球人である。レイダーの霊力で不治の病に犯された妹を救うために宇宙刑事に志願したのだ。宇宙犯罪組織から地球を守ること、そしてレイダーを倒し、自分の妹を救うこと。このふたつがシャイダーの宇宙刑事としての目的であった。

 「アニー、これが地球だ。」シャイダーが言う。
 「綺麗ね。シャイダー。悪い連中の好きなようにはさせない!」アニーが答える。


 春三月、まだ肌寒い地球の海岸でふたりの宇宙刑事はこれから始まる熾烈な戦いを駆け抜けてゆくために固い約束をした。

 「守り抜くぞ!この青く美しい地球を!」



 その誓いは、地球侵略を企てるフーマーとその背後で暗躍するレイダーとその眷属にたいしての宇宙刑事シャイダーとアニーの宣戦布告であった。

 

 

(2007年7月23日)
(黒猫館&黒猫館館長)