超人機メタルダー、新世紀への出立

 

(超人機メタルダー、最終回のその後)

「黒猫館館長・作」

 

(↑超人機メタルダー↑)

 

 「僕は生まれてきて、良かった。」・・・

 「流星ーーー!!」
一荒の叫びが暗い夜空にいつまでもこだましていた。


        ※                  ※


 ネロスとの最後の戦いを終えたメタルダーは舞と一荒と別れると、夜の広大な草原を相棒のスプリンガーというロボット犬と共に歩いていた。いつから歩いているのか。いつまで歩いていくのか。時間の感覚はもう無かった。
 「いい風だな。スプリンガー。」
メタルダーの呟きにスプリンガーが答えた。「ハハ。おまえらしくないぜ。やけにセンチになってしまってよ。」あくまでクールなスプリンガーであったが、その言葉を発しただけであとは黙りこんだ。メタルダーももう話さない。ひとりと一匹が黙々と夜の草原を歩き続けていた。
 ざざ・・・と風で草が揺れる。空には満月。なにかが起こりそうな静寂の中、メタルダーとスプリガンーの前にひとり立つ者がいた。

 メタルダーがゆっくりと声をかける。
「来ると思っていた。クールギン。」

 そこに立つ影は月光で煌々ときらめくクールギンの姿であった。銀のふたつマントが風ではためく。
「バカな!こいつは死んだ筈じゃ!?」スプリンガーが叫ぶ。メタルダーがスプリンガーを抑えながら静かに話す。クールギン、僕には君の本当の姿がわかる。さあ、そのマスクを取ってくれ。」
 クールギンはなにも話さない。一瞬の沈黙の後にクールギンの右手が腰の剣から離れた。そしてゆっくりと自分のマスクを掴む。ぐいとマスクを引き抜くとクールギンはマスクを後ろへ捨てた。

 「やはりな。」メタルダーが呟く。月光がゆっくりとクールギンの顔を照らす。その顔は流星と一寸も違わぬ同じ顔であった。
 「馬鹿な!こいつは一体!?」スプリンガーが激昂する。しかしメタルダーは最初からすべてを知っていたかのように冷静に話を続けた。「クールギン、いや、古賀竜夫、今こそ話してくれ。僕たちの本当の秘密を。」

 クールギンは話さない。時間が過ぎる。月光が暗雲に遮られてゆく。一分。二分。時間だけが過ぎてゆく。・・・永遠にも感じられる一瞬の時間の後、古賀竜夫を呼ばれた青年がゆっくりと口を開いた。

 「剣流星。見事だった。ネロス帝国にたった一人で立ち向かい、あの忌まわしい帝国を滅亡に追い込むとは。重ねて言おう。見事だ。」
 「皮肉は止めねえか?クールギン!」スプリンガーが荒げた口調で言う。しかしクールギンはスプリンガーには一瞬も眼をくれず話を続ける。「ネロス帝国崩壊の予兆を感じ取ったのはモンスター軍団が全滅した時だ。・・・ゲルドリング。凱聖ともあろう者があの様とはな。ゲルドリングの死を見届けてからわたしはネロス帝国から身を隠した。もちろんネロスは焦ったさ。そしてあの馬鹿げた茶番が行われた。。『凱聖クールギンは桐原剛三の影武者だった』、、馬鹿な。いかにもネロスが考えそうな茶番劇よ。しかし本当のわたしはここにいる。流星、おまえが言ったとおりわたしは古賀竜夫、つまりおまえの『モデル』になった男だ。そして今こそ明かそう。わたしとおまえ、そしてネロスと古賀竜一郎の本当の関係を。」

 「話してくれ。古賀竜夫。僕は知りたい。僕の出生の本当の秘密を。」メタルダーが静かに応答する。

 「メタルダー、いや剣流星、ゴッドネロスはすべての闇をその身にまとったまま死んだつもりだろう。しかしそうはさせぬ。わたしはまずネロス、あの薄汚い男の化けの皮を剥ぐことから始めたい。
 村木国夫、これがやつの表向きの本名だ。東大研究室で古賀竜一郎の部下をしていたというのも事実だ。しかしそれは前大戦末期。やつが暗躍していたのは満州事変の時期から大陸において、満州第731部隊においてだ。」

 スプリンガーが叫ぶ。「731部隊だと!?ネロスはあの悪魔の部隊にいたというのか!?」メタルダーは沈黙している。クールギンはあくまでゆっくりと話を続けた。
 「ふふ。そう興奮するな。ロボット犬さんよ。そのとおり。ネロス、いや、村木の正体は731部隊の上層部の人間だ。村木はありとあらゆる残虐非道な実験を繰り返した罪で満州に侵攻した旧ソ連に拘束され、即座に裁判なしで斬首されたらしい。つまり村木が東京裁判でB級戦犯として裁かれたが、汚い手で逃走したというのはあとから考えられたでっちあげ話だ。」

 メタルダーがゆっくりと呟く。「首を切られた人間がなぜ?なぜ『ネロス』として蘇ったんだ?古賀竜夫。」クールギンの話は続く。月光が再び顔を出した。「ネロスはいつも『影』におびえていた。『黒い影』、そいつがネロスの首をもう一度接続して再生させた張本人だ。・・・、さて村木国夫はウラジオストックから日本海経由で新潟へ入り、日本へ潜伏した。そして日本はポツダム宣言を受諾し終戦した。村木はすばやく終戦直後の混乱に紛れて旧731部隊の戦犯どもと合流するとひそかに小さなコミューンを作った。表向きは『慈善団体』という名目でな。その『慈善団体』の中には元731部隊将校、諏訪中佐もいた。この諏訪が帝銀事件に絡んでいるのは暗黙の事実だ。そして村木を中心とする『慈善団体』は戦後犯罪史の裏面に常に存在していた。そしてやつらは高度成長期を経た時代に「桐原コンチェルン」という名で改変され経済の世界に乗り出すことになる。・・・流星、これが村木国夫という男についてわたしが知っている事実だ。」

 沈黙が続いた。スプリンガーももう話さない。メタルダーが口火を切った。「黒い影、それは誰だ。」

 「流星、世の中には知らないほうが幸福という事実もある。それでも知りたいのか。『黒い影』の正体を。」メタルダーは無言でうなずく。
 
 「古賀竜一郎は東大研究室に村木を迎えた。その理由は731部隊の持つ資料を利用したかったからだ。しかし村木はすでに首を斬られている。、、、すると『黒い影』とは。」

 メタルダーが押し殺した声で言う。「ありえない。そんなことは。クールギン、、、許さないぞ。デタラメを言うのは!怒る!!」メタルダーが身構える。クールギンは微動だにせず話を続ける。 
 「首と胴体が切り離された村木の死体を日本に運んだのは先ほども名前の出た諏訪中佐だ。村木と諏訪は盟友だったらしい。古賀竜一郎は諏訪から旧731部隊の資料を受け取るとそのバイオテクノロジーの知識を経て古賀を復活させた。そして同時に自分の息子である当時すでに戦死していた古賀竜夫のクローンを造った。それがこのわたしだ。なぜ?理由は簡単だ。村木を再生させたからには村木を監視する者が必要だったからだ。それがこのわたし、クールギンだ。そしてメタルダー、おまえが製造されたのは実はこの時期ではない。」

 メタルダー、スプリンガー共に重苦しい沈黙を守っている。

 「古賀竜一郎は常に影から村木を監視していた。あの桐原コンチェルンの裏の顔であるネロス帝国、あの帝国にいた軍団員の中にも古賀竜一郎と結託して村木、つまり帝王ネロスを監視していた者は何人もいる。あの美人秘書K&Sもまた古賀竜一郎の腹心の部下だ。つまりネロスは単なる傀儡、本当の巨悪は古賀竜一郎、そのひとなのだ。そして古賀竜一郎はバブル絶頂期の東京、1987年にメタルダー、おまえを誕生させる。なぜ?ネロス帝国を滅ぼすためにだ。古賀竜一郎は1990年代に始まる長期不況の時代をすでに見越していた。高度成長期の終焉、そして新しい時代を迎えるにあたって古賀竜一郎は桐原コンチェルンの改変をもくろんでいた。ならばその裏の顔であるネロス帝国も改変されなくてはならない。ネロス帝国改変の尖兵として製造されたのがメタルダー、おまえだ。」

 「信じない。僕は信じないぞ。古賀博士がそんなことをしていたなんて。」メタルダーが力強い声で言った。スプリンガーもそれに応じる。「異議なしだ。クールギン、おまえの言っていることはすべて荒唐無稽なデタラメだぜ!」

 「ふふ、・・・」クールギンが含み笑いを浮かべる。「そのとおり、大戦中、そして終戦直後に起きた出来事など現在ではもはや霧の中だ。嘘だと思いたかったら思え。しかし古賀竜一郎は今も生きている。そしてメタルダー、おまえももはや用済みだ。それゆえ・・・」

 「怒る!!」

 メタルダーが戦いのポーズを取る。クールギンが腰刀をゆっくり抜いた。「タグ兄弟、チューボ、ザーゲン、、、みな良い部下だったよ。もちろんヒドーマンやウオッガーのような痴れ者を除いてだが。そんなわたしの可愛い部下たちの霊に誓ってメタルダー、おまえを斬る!!」

 月光が暗雲に再び隠れる。カラスが鳴く。風がすすり泣きのような音をたてる。その瞬間、メタルダーとクールギンは切り結んでいた。・・・




 「・・・・・見事。腕をあげたな。メタルダー。ふふ。ヨロイ軍団は本日で解消される、か。しかしメタルダー、すでにベルギーに在住のバルスキーの上司であった戦闘ロボットが日本に向かっている。南米からは新たなモンスターたちが続々やってくる。新たなヨロイ軍団の召集はすでに始まっている。メタルダー、おまえにとっての本当の戦いはこれから始まるのだ。古賀竜一郎が日本の『黒い影』として君臨するかぎりな・・・ふふふ。ふぅウッ!!」その瞬間ク−ルギンは足を踏み外した。暗い闇へ飲み込まれてゆくクールギン。そこは切り立った崖であった。

 スプリンガーが呟く。「クールギンは死んだのか?」「わからない。・・・でもそんなことは僕には関係ない。」メタルダーが答える。「これからどうする。」「スプリンガー、今のクールギンの話は僕にはもうどうだっていいんだ。僕は僕のロボットとしての出生の理由がわかった。だから次に僕は突き止めたい。僕が本当にこれからやるべきことはなんなのかということを。そのためだったら僕はこれまでどうり戦ってゆく。」

 「なるほどな。では行こうぜ。まずこの草原を抜けようぜ。それからのことは俺も考えていない。」スプリンガーの声にメタルダーが反応する。「行くか。メタルダー。」「うん。」

 メタルダーとスプリンガーが暗夜の草原を再び歩き出す。それはメタルダーとスプリンガーにとって新たな世紀への出立であった。

 これからも頼むぞ。メタルダー。いつの日か再びその勇姿を見せてくれ。さらばメタルダー、また会う日まで!。
 

 

(2006年2月8日)