『人獣裁判』

 

  

ヴェルコール著。小林正訳。白水社発行。初版1953年10月5日発行。外装なし完本。定価280円。 

 『海の沈黙』『星への歩み』など第二次世界大戦中にレジスタンス文学の旗手として活躍したヴェルコールが突如発表して読者を驚嘆せしめた「架空小説」が本書。あらすじはアフリカの奥地で発見された「トロピ族」という生物について「人間であるのか獣であるのか?」を裁判で延々と論争するという奇想天外なものである。当初はこの小説は「人間性の尊さを訴えた作品」と評されていたようであるが、最近では「SF小説の古典」と評される場合が多い。優れた小説というものは無限の解釈を読者に与えるということの好例であろう。

 さて本書は昭和20年代に発行されたため状態の良い本は非常に少ない。ヤケ・ワレ・コワレのある本が大多数で美本を探すのは至難の技であろうが、苦労して探す甲斐のある名著であることは間違いないと思われる。

 さて『人獣裁判』といえば最近の方々は友成純一氏の『人獣裁判』(大陸書房奇想天外ノベルズ)を連想されるかもしれないが、実は友成氏もヴェルコールの『人獣裁判』を読んでから自分の『人獣裁判』を書き始めたのだという。このように現代でも本書は様々な人々に影響を与えつづけている。