わたしは誰かしら?

(闇姫の自己紹介)

 こんばんは。真夜中のチャイルドたち。今夜も勉強しないでテレビ・ゲームやってたんでしょ?ふふ。ママは怒るかもしれないけど。わたしは怒りませんよ。それどころか、とってもいい事だとあなたを誉めてあげたいわですわ。プレステ。DVD。ギャルゲー。あら「ギャルゲー」とはなにかしら?わたしに教えてくださらない?ふふ。そういうものにいりびたっていればどんどん成績は落ちてゆきますね。当然のことですね。その先にまっているのは何かしら?・・・どういう運命があなたを待っているのかしら?ふふ。

 さて。わたしのことを知りたいですの?イケナイ子ですね。でも。ちょっとだけなら。教えてあげてもいいですわ。あなただからですよ。カワイイ子。・・・ふふ。

 昔。ずっと昔。わたしも「女子高校生」だった時がありますわ。毎日毎日、カバンを持って学校へ行くのよ。あら、その頃ひらべったいカバンが流行っていたわね。一ミリぐらいの薄さ。でも。わたしは優等生だったから。そんなカバンを持っては行きませんでしたわ。当然ですね。わたしは教室の一番前に座っていましたわ。だって優等生ですもの。そして先生の話を一生懸命聞くのよ。もう死にものぐるいでね。当然。成績はトップでしたね。しかし。トップというものはつらいものですわよ。いつ二位、三位、それ以下に落されるか?その恐怖と戦ってわたしは勉強したわ。文字どおり。「勉強のしすぎで頭がおかしくなるほどに」ね。ふふ。

 そんなある日。そう。忘れられない日ですね。朝起きたら頭が変でしたわ。頭が重い。まるで石が頭にのっかっているみたいにね。そして学校へ。なにも頭に入らない。その時のわたしの恐怖をあなたはわかります?わからないでしょうね。ふふ。それほど勉強したことのない子のようだから。ふふ。当然次の日、親に連れられてわたしは「神経科」に行きましたね。そこの医師の診断は「うつ病」。原因は勉強のしすぎ。要するに自分の限界を超える努力をしてしまったってこと。あなたもそこまで一度自分を追い込んでみたらどうですの?ふふ。さて。わたしは取り乱しましたわ。わたしから勉強を取ったらなにが残るってですね。こうなったらやることは決まってますね。「自殺」。「手首を切る」なんて当世風の方法は考えませんでしたわ。リストカット。それもいいことかも知れませんね。でもわたしはより「確実」な方法を選びましたのですね。「飛び降り」。その頃は『完全自殺マニュアル』なんて便利な本はありませんでしたね。飛び降りが意外と楽な自殺の方法だなんて全然思いませんでしたね。ですから。飛び降りたら。どんなに痛いだろう。どんなに無様だろうって。はらわたが飛び散るんじゃないかって。ふふ。心配しましたわ。そういえば歌手の岡田有希子さんの飛び降りもこの頃でしたね。あのフォーカスに載った現場写真。どすぐろい血が岡田さんの頭から流れていましたね。ふふ。ご免なさい。坊やの年齢ではわからないお話でしたね。

 あの日は初夏のさわやかな日でしたわ。わたしは街をぶらぶら歩いていましたね。なにも見てないトロンとした目つきでね。店から店へ。行くあてもなく。時間はどんどん過ぎてゆきますわ。9時。10時。11時。うちの親、今ごろ騒いでいるだろうな。などと思いながら。そして。わたしは私鉄に乗りましたね。そして郊外へ。郊外のA駅から降りたわたしは大きな団地のある方向に向かってあるきましたわ。そして団地の到着。深夜の大きな団地って不気味ですね。いっぱい中に人がいるはずなのにシーンと静まり帰って。そして。団地の裏側の螺旋階段から上へ。上へ。ギイギイいいましたね。螺旋階段が古びていて。それでもどんどん上へ。そして屋上。いい風でしたわ。いまでも思いだしますね。いままでこんなさわやかな風があったかな?と思うぐらいの。そして屋上の手すりを乗り越える。下を見ると車がおもちゃのよう。ふふ。当然怖いですよ。全身が文字どうりガクガク震え始めましたね。あの震えはわたしの「生命」が「SOS」をだしているということでしたのね。当然、歩けませんよ。歩こうと思っても身体が動いてくれないんですね。これは困りましたね。飛び降りるには前に歩かなくてはならない。でも歩けない。これは相当な困りものですよ。そこで。わたしがどうしたかって?ふふ。せっかちな子ね。ゆっくりと人のお話は聞くものよ。わたしは全身の力を抜きましたわ。すると。どうなると思います?ふふ。そのまま前のめりに倒れてゆくのですね。当然、わたしのおなかがコンクリートにぶつかりましたわ。しかし。空中に乗り出した分の身体の方が長かったから。そのまま。落下ですわよ。しかも。壁に全身を擦られながらね。しかし。いつまでたっても「衝撃」はきませんの。どうしたのかな?わたしはもう死んでいるのかな?わたしはいろいろ考えましたね。その時ですわ。あたりの光が一斉に消滅しましたわ。「闇」。本当の「闇」。そんなものをあなたは経験したことがあるかしら?「闇が深い」という表現が実感としてわかるかしら。ふふ。いいわ。じき。教えてあげるわ。手取り、足取りね。さて。そんな漆黒の闇のなかでわたしはちょこんと座っておりましたわ。不思議と恐怖はありませんの。また「時間」の感覚もありませんでしたね。すると。闇のなかから声がしますの。なんかお年寄りのガラガラした声に似てましたわ。

 「汝、選ばれし人間よ。汝が闇の使徒たると此処で誓うならば、わたしはおまえに大いなる「力」。「闇の力」を与えようぞ。人間よ。誓うか?否か?」

 その声を聞いた瞬間、わたしの中から猛然と湧き起こってくる感情がありましたね。それは親への。学校への。友だちへの。そしてこの世界、いや、この宇宙への怒り。この宇宙を「消滅させてやりたい。」そのように思いましたの。それはどん臭いお勉強少女だった今までのわたしには経験のない感情でしたわ。それほどの「怒り」。そのようなものがわたしの中に眠っていたなんて。自分でもびっくりですわ。ふふ。そしてわたしは問いましたの?あなたは誰ですか?と。すると。

 「わたしは限りのない憎悪、羨望、怒り、悲嘆の使者。人間たちはわたしをこう呼ぶ。『くらやみ男爵』と」。

 その瞬間、大きかまを持った骸骨がわたしの前に立っていましたわ。わたしは思いましたの。この方についてゆこうって。わたしは言いました。「誓います。」くらやみ男爵「それでは今日からおまえは「闇姫」。闇の使徒。わたしについてこい。・・・」

 ふふ。坊や。長いお話で疲れちゃったかしら。でもね。これがわたしという存在の誕生の由来。覚えておいてくださいね。くらやみ男爵に連れていかれたわたしはそれからどうなったかって?それはまた次の機会よ。

 ふふ。これで「自己紹介」になっているのかしら。ともかく今夜のわたしのお話はこれで終わりよ。おやすみなさい。真夜中のチャイルドたち。