『女十態』

 

ジョイス・マンスール原著。生田耕作訳。奢覇都館発行。初版1991年6月発行。限定130部記番。アルフォンス・イノウエ銅版画3葉入。函完本。耳付。 

 「奇怪な令嬢」の異名を取るフランスの女流詩人、ジョイス・マンスールの詩集が本書。ちなみにマンスールの訳書は本書と『充ちたりた死者たち』(薔薇十字社)の2冊しか出版されていない。

 本書はマンスールの第一詩集『絶叫』から生田耕作が恣意的に抜き出した詩篇を十編ほど納めたものである。良い詩集の条件は「薄い詩集」である。と飯島耕一が言っているとおりこの程度の分量が限定版の詩集には調度良いと思われる。アルフォンス・イノウエの銅版画も極めて浪漫的な画風で本書にピッタリ合っている。

 さて詩風は日本の戦後詩とはおおよそかけ離れた詩風であるから現代詩の愛好者にはしっくりこないかもしれない。強いていえば明治期の蒲原有明や三木露風の詩風に近いと筆者には思われる。

 しかし詩の題材はエロティクかつ悪への賛美に充ちた非常に現代的・先鋭的な題材を扱っており、古臭い感じは全くしない。幻想文学をひと齧りしたことのある人ならすぐに馴染める詩群であろう。

 さて本書は奢覇都館の特装本と言ってもいいほどの豪華な造本であるのになぜか普及版が出ていない。その為古書価は「限定本凋落の時代」と言われる現在でも上昇を続けているらしい。どうしても欲しい人はなるべく早く入手することをお薦めする。

 最後に付け加えるならば本書は横長なのでガラス・ケース付きの本棚に入らない。どのような場所に収納するのか考えてから買うということも古書を愛好する人間なら当然考えておかなくてはならない問題だろう。