『楕円の鏡〜幻想小説集〜』 

 

 

渡辺恒人著。近代文藝社刊。初版1982年10月15日。カバ帯完本。定価1500円。

 現在は麻布大学で性科学の研究をされている渡辺恒夫氏のめずらしい創作集。渡辺氏はわが国における「男性学」の権威であり、『脱男性の時代』、『アンドロジナスの文明』などの理論的著作が多数ある。

 さて本書は「幻想小説集」と銘打たれているとおり文字通り極めて幻想的な中篇小説5編を収録する。といってもSF的な味付けも濃厚であり、正確には「幻想SF小説集」と銘打ったほうが良かったかもしれない。

 代表作はバルザックの『セラフィタ』に想を得たという「新・セラフィタ」であり、男性娼婦と女性レイプニストが跋扈する異様な未来社会が極めてグロテスクに描かれている。

 自らのジェンダーに疑問を持っている若い男性諸君、またフェミニズム関係の女性はぜひ一読すべき小説集である。本書を読んで、問題意識が目覚めたら次は『脱男性の時代』をお薦めする。