『心象水栽培』

 

 

 

小倉高徳著。短歌新聞社刊。初版昭和47年2月7日。ちつ完本。定価1500円。 

 小倉高徳とは現在の水城春房の本名である。加藤克巳に師事。吉井勇の『人間経』を耽読して短歌のなんたるかを学ぶ。

 さて小倉高徳の歌は独特である。誰の歌にも似ていない。「前衛短歌」というカテゴリイに入れることもできないし、アララギ系の伝統的短歌でもない。かかる歌の発生源はどこなのか謎めいている。

 この『心象水栽培』に収められた歌は江戸時代末期の町人の世界らしき世界を舞台とし、そこで男女の艶事を延々とつづる。そこにはなにも現代的イデオロギイも現代人へのメッセージもない。この本の著者は己の作る独特の世界に閉じこもり、遊び、淫している。まこと<色曼荼羅>という副題がぴったりな偏執狂的世界なのである。しかしだからこそこれらの歌は古びないし、陳腐にならない。要するに時代を超越しているわけだ。良い意味で内向的なのである。

 水城春房は次の第二歌集で現代歌人協会賞を受賞しする。しかしその歌風は変節することなしにこの第一歌集から一貫している。かかる歌人こそ真の歌人というものなのであろう。

 ところで本書は古本屋の店主もあまり知らない本なので安く入手することも可能。ただし購入の際にはちつの紐がちゃんとついているか確認することが肝要であろう。