詩の部屋




天使は希望の狭間に羽ばたいて

北の街の記憶

春、美希子へ

歌劇団よ

恋歌 

死神

転生前夜(別室)

魔王(別室)

日記

抵抗のあした(別室)

ブラウス

ドレス(ブラウス反歌)

青春の遺書

心中伝説

場末の喫茶店にて

愛することと愛されること(別室)

女、汝、哀れし者よ

極楽往生小唄

貴方よ 正しき道を往け

奪いとるもの

残像

ママに会うために生まれてきたんだ

春の水葬

空について

方丈の舟

山田太郎の遺書

みずこだま

(御寄稿作品)くろねこさんに捧げるたてよみ歌

種房宣言

きらめき

ニルヴァーナ

死刑報道

春四月、桜の下で

(投稿作品)おまえがオマケ

数字地獄

レクイエム〜シン・アスカのために〜

嗚呼、寅次郎

暗愁の秋に(新訳版)

怒れ、ジャミラよ

記憶せよ 2006年を

素晴らしきヨガ

闇への供物

刺殺

闘争への序曲

われら古本マニア

美しき祖母よ

ねがい

花闇

凍結した道路を疾走する午後

ヴェネチアへの夢

自由、夜

尻の穴の光

永遠という地獄

ボクは元気なハムスター(ハムちゃまご寄稿作品)

他人を殺さず自分も生きろ

えびちゅ幻想(5月5日こどものSP)

だらく

NEW黒い海のムコウへ

 

 

 


天使は希望の狭間に羽ばたいて


 目を閉じないで
耳を塞がないで
夢みることをあきらめないで

一方通行の愛の哀しいもどかしさに
君が傷ついた暗闇の夜
ぼくは 時間の壁を乗り越えて
君の枕もとに降り立つ

ぼくの白い翼は君のための魔法の道具さ
もし きみが願ったなら 果てしない時の彼方へ
君を連れていってあげる

見て 暗闇の切れ目から降り注ぐ
光の洪水のなかに
君の思い出の場所
君が好きだった音楽
君が話しかけた親しい人たち

輝く粒子の一粒一粒が 織り上げた銀河のスクリーン
君が夢みたすべての記憶が 透明な宇宙線となって
君の未来から反射しているよ


ああ どんな底知れぬ 暗黒の夜のさなかでも
君がぼくの白い翼や
       銀色のチュニックや
       虚空を舞う金の髪の毛や
そして 君へのまなざしを放ち続ける碧色の瞳を
すみずみまで暗黒のキャンパスに描き続けるかぎり
ぼくは なんどでも なんどでも 君に
哀しくなるほど 美しい夢と そんな夢みる人にふさわしい未来を
用意してあげる

いつか ぼくといっしょに 空へ飛び立ち
                宇宙を超え
夢みる人たちのふるさとに帰ってくる その日まで
ぼくは いつまでも いつまでも 君を見守っているから

 (決定稿2002年1月20日)

 

  

 北の街の記憶

まどろみ続けてきた この部屋に止まることなく廻り続けた幾多の月日
今 たましいを閉じ込めたこの小さな函を開ける時が来たと
一羽の冬の燕が教えてくれた

窓を開けるたびに遠い遠い空にあこがれながら
廻り来る 春に 夏に 秋に 冬に
遠い遠い想いをつのらせて
自分でつくりあげた小さな檻の中から
春がまた廻ってきて 想いだけが空に飛び立っていく

星星への願いは雪の香りにむせぶ北の街の黄昏を
そよかぜのように 吹き抜けて
貴方が住む蒼く光る街へと
果たせぬままに過ぎた 約束の日を取り戻そうと
月の光のように静かに流れてゆく

暗い雨の降る日曜日 病める悲しみの床で
ただ蒼く光る街の記憶を反復する
あの日の約束 貴方の透き通った瞳
旅発ちの日は近いと いつか必ず旅立つ日がくると
蒼く光る街がよびかけてくる

外は激しい二月の吹雪
泣きたくなるほど 私の想いをこごえさせて

(作詩開始 1987年9月2日)
(決定稿 2002年1月30日)

 

 

 

春、美希子へ

美希子よ、二十歳の誕生日本当におめでとう。

おまえが生まれた年、この国は戦争をしていた。
爆撃機が降らす焼夷弾の炎から逃げ惑いながら
私とお母さんは真剣におまえを生むことが、
おまえの幸せに繋がることなのか・・・?と
真剣に思い悩んだものだ。

だが今のおまえの屈託のない笑顔を見ていると
本当におまえを生んで良かったと私には思えるのだ。
おめでとう。そしてありがとう。美希子。

私とお母さんがおまえに残してやれるものは本当に少ない。
猫の額ほどの家とちっぽけな本棚、そこに収められたわずかな書物。

しかし私はいつもおまえに教えてきた。
「誇りを失うな」ということを。

自分に誇りを持っていさえすれば、どんな逆境でも人は生きられる。
どんなに苦しい時でも、自分が自分であることを喜びとすれば、
その人間は決して潰されることはないのだ。

逆に誇りを失うならば、その人間は卑屈となり
自分を駄目にするばかりか、他人に対しても残酷に振舞うようになるのだ。
戦争中、そういった人間たちを私はたくさん見てきた。

だから 美希子よ。誇りを持って生きて欲しい。
自分に対する厳しさと、もしも他人が自分を侮辱したならば、
直裁に怒る素直さを忘れないで欲しいと思うのだ。

私がおまえにのこしてやれることはそのことだけだ。

今は5月、おまえが生まれた時に植えた菩提樹(リンデンバウム)も立派に育った。
春の光のなかで輝く若き木々たちはまるで今のおまえのようだ。

美希子よ。二十歳の誕生日、本当におめでとう。

(決定稿2002年2月2日)

 

 

 

 

歌劇団よ

この場所 この時代
世紀の曙に集いし乙女らよ

夢みることを生き
希望を語ることを恐れず
戦いのなかに愛を見出すことに成功した
乙女らよ 今こそ 旅発ちの時・・・

おごそかに乙女らは歌う
かって、あるいは遥けき未来
この地上に存在したという英雄を称えて
その激しいコーラス!を皆よ 聞け
歓喜の合唱 革命の叫喚 
そしてすべての生命への賛歌

創世から世界を清めていたという女神たちの歌声

今夜も また 新しい歌劇が始まる
それは決して終わることのない
永遠の輪舞

 (決定稿2002年2月8日)
(この作品の初稿は某特撮サイトの女性グループに捧げられた。)

 

 

 

 

恋歌

裏切られた思い出に 涙を垂らす夜 ふと思う
せめて私の泣き声を 綺麗に並べて詩にしよう

でもいくら詩を書いてみたところで 私の想いがあのひとに届くわけがない
それでも私は書き続ける
何行も 何枚も 何冊も

淋しがりやの私が この黒い夜を渡っていくには
泣き暮れるか 詩を書くか それぐらいのものだから

そうして出来上がった詩を 私は咽喉をふくらませて朗読しよう
泣き声が歌声にまで なんどでも なんどでも

こんなことができるのも すべて あなたがいたから
ありがとう 愛させてくれて
ありがとう 裏切ってくれて

現在(いま)はもう街のざわめきのなかに 去っていった
あのひとのために
私は今夜も詩を書こう 

(初稿1994年4月9日)
(決定稿2002年3月10日)

 

 

 

死神

鏡のまえでそっと微笑む
今夜も会いにきたよ 一人だけの密会

しおれた花 けだるい音楽 破れた詩集 散らばる部屋で
ああ 君だけがぼくの天使さ 君の他もうなにもいらない

ぼくは深紅のチャイナドレスまとって 今夜も君と踊るのさ
君の薄紅の唇 黒碧の瞳 白い指先 みんなぼくと同じ

でも いつか 醜いせむしの男たちがやってきて
ぼくらは鏡を叩き割られて ふたりに引き裂かれていくだろう
だからその前にぼくらの物語の幕をおろして すべてを終わらせよう
このまま一人で抱き合って 鏡のなかに消えてゆこう

ああ 永遠を感じる この夜の果て 優しすぎるよ

君は 死という 硝子のぬくもりだから 

(決定稿2002年3月26日) 

 

 

 

 

日記

日記1

 「此処は何処なの?」

ぽつりと問うと

「地獄だよ」
と耳元で囁いてくれるひとがいて

それだけで
わたしは
あした一日を生きてゆける

 

日記2

鏡のなかにしか
わたしを想ってくれるひとは
いない

それは幸せなことなのかしら

それとも不幸なことなのかしら

 

日記3

淋しい夜にかかってくる電話

それはまるで

生きていてもいいんだよ

ささやいて
 くれているみたい 

 

日記4

かぼそい西日がやけに暑く
感じるよ

浅い眠りを繰り返して
気がついてみたら

PM 4:30

 

日記5

死んでみようかな

口癖になるほど
唱えつづけて
22年

ちょっと悲しいけど
明日こそ
 すべてを決めよう 

 

日記6

あしたも
わたしは
この悲しみの夜を
生きてゆこう

いつか
悲しみが哀しみにかわる
透き通った
朝がくるまで 

 

日記7

やがて
言葉は 忘れられ
肉体は土に還る

悲しみは哀しみの海に沈み

眼差しは 地上を離れ
星星の世界を駆けてゆく

すべては
ふりそそぐ雨のように 流れ去り
決して思い出せない 思い出となる

運命という言葉が 嫌いだった私も
消滅する瞬間だけは笑顔でいたい 

(決定稿2002年5月17日) 

 

 

 

ブラウス

 

ほのかに紅い花のうえに
真っ白いブラウスはおって
春の透明な風に
髪をなびかせる
十七歳の わたし

まっすぐな瞳の 優しいひとが迎えに来ても
わたしはどこまでも逃げ続けていく

逃げて逃げて逃げつかれた時

わたしは静かにガラス張りの部屋に入って

わたしの命日を待とう

うすら紅い花が真紅に染まるまえに
わたしはしずかに殺されてゆきたい

サヨナラ

十八歳の春がくるまえに
わたしは静かに眼を閉じ

星になろう

 

 

 

 

 

ドレス(ブラウス反歌)

 

体重35キロの棒きれ女
拒食に過食に被害妄想、強迫観念

優しいひとが迎えにきても
彼女の眼には百鬼夜行

十七歳の詩にその身を殉じて
今や三十路の二階の狂女

それでもどうやら月のものだけは
意志の力で抹殺して
まだ十七歳の気分でいるらしい

さあ!
今夜も黒いドレスをまとって
ひとりだけのダンス・パーティ開幕だ!

はかなげで 

アンニュイで

華奢で

無機質で

ちょっとエキセントリックな

永遠の美少女がひとり
ダニの湧いた畳の上で踊る 踊る 踊る・・・
踊り疲れても
そこは身体の墓場ならぬこころの墓場

新たな化け物また一匹飛び出して

棒きれ女
やせて怪我したカラスのように
飛べない翼で逃げていく

どこまでも どこまでも

逃げていく

 

 (決定稿2002年7月12日)

 

 

 

 

心中伝説

 

永遠に眠り続けたい そんな苦しい朝

浅い眠りを何度も目覚めつづける そんな悲しい夜

わたしはそっと左手のブレスレットをめくる
その裏に隠された深くて白い傷痕は
わたしに生きるいのちを吹き込んでくれる
決して消えないとこしえの勲章


今日もまた思い出したよ

光る剃刀
ぼたぼたと流れ落ちる血糊

廃れた公園の小高い丘に
幼いわたしと
いまはもういない兄の姿がうかびあがる

秘密の暗号を交し合った
ふたりだけの誓いの夜は
雪降るあの日の
心中伝説 

 

(初稿1992年4月10日)
(決定稿2002年10月27日)