『田園に死す』

 

寺山修司著。白玉書房刊。初版昭和40年8月11日発行。函帯完本。定価700円。 

 本書は寺山修司の第三歌集。第一歌集『空には本』では牧歌的な自然のなかに生きる清冽な少年像を、そして第二歌集『血と麦』では大都市に生きる若者の心情を見事に詠いきった寺山修司が満を期して故郷・青森県の土俗的風土の世界に挑んだ意欲作である。

 しかしこの歌集が描く世界は実在の青森県ではない。寺山修司が極めて演劇的な手法で人工的に創り上げた「架空の故郷」としての青森県なのだ。この点で私的な故郷賛美の多くの歌集と本書の決定的な違いがある。この歌集では例えば「仏壇を義眼が写るまで磨く祖母」の姿や、「新しい仏壇を買いに行ったまま行方不明になってしまう弟」といった架空の人物を多く登場させた極めて猟奇的な世界が展開される。これは恐らく寺山修司自身の青森県に対する強烈な愛憎が生みだした世界であろう。石川啄木のような素朴な「望郷の念」、そういうものが通用しなくなった時代が生みだした極めて現代的な異色歌集といえるだろう。

 尚、本書の装丁・挿画はのちに「寺山修司記念館」を設計することとなる栗津潔が担当している。