『群黎』

佐々木幸綱著。青土社発行。初版1970年10月1日発行。2分冊ビニカバ函入帯完本。定価1200円。 

 現在は「心の花」を主宰する佐々木幸綱の第一歌集。解説で大岡信が「佐々木幸綱の歌は男歌である。」と述べているとおり「男」だけが持ちうるであろう激しい感情と意志で貫かれた歌集である。

 しかしこの『群黎』をそれだけで語り終えるのはあまりにも杜撰すぎる。佐々木の弟子である俵万智はそのエッセイ集のなかで「『群黎』は内容・装丁・題名に至るまですべてが画期的な歌集であった。」と述べているとおり、この歌集はあらゆる面で非凡である。特に筆者が注目したいのはその装丁である。ひとつの函に2冊の本が入っており、<T>は連作編、<U>は見開きに一首ずつの一首独立編という試みを為している。これはいわば装丁者の加納光於の持論である「内容と装丁の幸福な一致」の実現であろう。また「群黎」という題名にも意味深いものを感じる。

 福島泰樹の『バリケード・1966年2月』と共に前衛短歌第三世代の貴重な収穫といえる歌集である。第15回現代歌人協会賞受賞。