『バリケード・1966年2月』

 

   

 

福島泰樹著。初版昭和44年10月1日発行。新星書房刊。カバ完本。定価800円。ハードカバー角背上製。 

 およそ30年以上前、筆者は吉祥寺「曼荼羅」というライブハウスで「短歌絶叫コンサート」なるイベントを見た。見る前は正直期待していなかったのだが、開演するやいなや福島氏の搾り出すような「絶叫」を聞いて頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。いままで「短歌」というと老人の日曜趣味程度の認識しかなかったわたしにとってこの体験は衝撃であった。「短歌とはかくも過激なものか」という感慨に打たれ自分で短歌を作り始めたのもこの頃である。いわば福島氏はわたしを短歌の世界に誘ってくれた恩人なのである。
 
 さて『バリケード1966年2月』は福島氏の第一歌集。早大闘争に題材を取った短歌が収録されている。良い歌集というものは最初から最後までテーマが拡散せずに統一されているものだが、その意味でこの『バリケード〜』は良い歌集の好例といえよう。
 
 しかし早大闘争とはいっても結局は「学費値上げ反対」程度のスローガンしか抱えられなかったという点で、ここに福島氏の「遅れてきた青年」としての悲しみがうかがえる。しかし早大闘争のなかに「敗北しなかったもうひとつの歴史としての60年安保」を幻視し見事にドラマチックな「革命」のビジョンを詠みこんだという点にこの歌集の非凡さがある。福島氏の短歌は単なる「学生運動の短歌」ではない。それは壮大に構築された「物語としての短歌」なのだ。
 
 さて写真右は福島氏と藤原龍一郎氏の対談の会で筆者が書いてもらったものである。福島氏はいやな顔ひとつせずに歌・署名を入れてくれた。ここにも「大人」(たいじん)としての福島氏の横顔がうかがえる。